人の気分や行動は認知(物事の考え方や受け取り方)の影響を受けており,その認知や行動に働きかけ,ストレスを軽減したり,気持ちを楽にする手助けをする心理療法を「認知行動療法」と言います。
同じ出来事でも認知(考え方や受け取り方)が歪むと,気分が憂うつになったり,ストレスを感じたりし行動に影響を及ぼします。例えば,仕事でミスをした時,上司に「どうして相談しなかったんだ」とキツク言われた場合,「自分のミスで上司に迷惑をかけてしまった」,「上司の信用を失ってしまった」,「こんなミスをする自分はダメな人間だ」と考えてしまうこともあると思います。そうなると,気分が落ち込み,仕事に行くのが嫌になり,休んでしまうといった行動に影響を及ぼします。
また,認知にはクセのようなものがあり,ストレスを感じるような出来事があった時に,自然に浮かぶ考えや,イメージのようなものがあります。例えば,①会社であいさつをしたのに,返してくれなかった⇒○○さんは私を嫌っているんだ「相手の気持ちを決めつけてしまう」,②仕事で1つミスをした⇒今までの成功は意味がない「100か0と極端な考え」,③仕事は定時で帰るべきではない,主婦なら家事は完ぺきにすべきである「~すべき,~しなければならない,といったべき思考」
このような自然に頭に浮かぶイメージのようなものを「自動思考」と呼び,自動思考はこれまでの経験や環境で自然に身に着いたものです。自動思考が悪いわけではなく,自動思考と現実との差が大きければズレが生じてしまいます。
認知行動療法では,この「自動思考」に気づき,どの程度現実と食い違いがあるかを考え,バランスをとって行きます。医療ではうつ病や不安障害,心的外傷後ストレス障害(PTSD)などに有効性が認められています。一般的には,病院やクリニックなどで,医師または臨床心理士・公認心理師などのカウンセラーによって1回30分~1時間の面接を10回~20回程度行います。
今回は,自分で行える認知行動療法「コラム法」を紹介したいと思います。コラム法とは,嫌な出来事があった時や,気分の落ち込みがあった時,あらかじめ決められた項目に沿って,その時の状況や感情などを記載していきます。ネガティブな考えになりがちな状況でも,自分の今の考え方や感情を「書く」ことで客観視でき,自分の思考のクセに気づくことができます。もしかしたら,考え過ぎや勘違いかもしれませんし,違った捉え方によって行動が変わるかもしれません。コラム法には3コラム・5コラム・7コラム法がありますが,今回は7コラム法についてお伝えしたいと思います。
【7コラム法】
①状況
②その時の気分や感情(その強さ0~100%)
③自動思考
④根拠
⑤反証
⑥適応的思考(別の考え)
⑦気分の変化
この7つの項目に沿って書いて行きます。
【詳しく説明】
①嫌な出来事,ストレスに感じた出来事について事実のみを記載
(例)会議で意見を求められ発言すると失笑された
②その時,どのような感情・気分であったか,その感情の強さを0~100で表現
(例)恥ずかしい(80%)怒り(40%)
③その時に思ったこと,感じたことをそのまま記載
(例)みんなに馬鹿にされた。もう自分の意見は聞いてもらえないのでは
④そう考えた根拠となるもの,理由
(例)みんなが笑っていた。それ以降,意見を求められなかった
⑤4を否定する別の考えや事実を記載
(例)笑っていたのは一部の人で,上司は笑っていなかった。馬鹿にされるようなことを言われたわけではない。今までの会議では良いアイディアだと称賛されたこともあった。
⑥現実の見直し *「根拠」しかし「反証」という事実もある,といった感じで書きます
(例)みんなが笑っていたと感じた。しかし,笑っていたのは一部で,馬鹿にされるような言葉を言われたわけでもない。今までは称賛されたこともあり,今回は少し意見がずれていただけで,誰にでもあること。
⑦気分の変化
(例)恥ずかしい(40%)怒り(10%)やる気(50%)
やってみて,気分がどのように変化したかを書きましょう。現実に目を向け,違った視点から見てみると,嫌な出来事と少し距離を取れるようになっていませんか。そのことで,心が軽くなり,気持ちに余裕が生まれると,問題解決もできるようになるでしょう。
今回,気持ちが楽にならなかった方は,コラムの書き込みが抽象的になっていたかも知れません。より具体的に,自動思考は主語を用いて,自分の評価に関することを書いてみて下さい。効果が感じられず,逆に気持ちの落ち込みが大きくなった方などは,自分で行うのは中止し,専門家に相談してみましょう。
引用・参考文献
大野 裕 「こころのスキルアップ・プログラム」 認知療法・認知行動療法の視点から
http://cbtjp.net (2022年9月13日)