「思ったようにいかない」「こんなはずじゃなかった」とモヤモヤした経験はありませんか?
実は、こうした不適応の背景の一つに、私たちが心のなかにもっている“理想の姿”と、“実際に感じている自分”との間に生まれるズレが関係していると考える立場があります。
この考え方は、心理療法家カール・ロジャーズ(Carl Rogers,1902-1987)が創始した来談者中心療法(Client-centered Therapy)の理論に基づいています。ロジャーズは、実践を重ねるなかで、「人間には本来、成長しようとする力がある」と確信を深めていきました(山田,2024)。
今回は、ロジャーズの理論で重要とされる「自己一致」という概念について説明します。「自己一致」という概念を理解するうえで、私たちが心のなかで思い描く「理想自己」と実際に感じている「現実自己」が重要になります。
◆理想自己と現実自己
私たちは誰しも、心のなかに2つの自己イメージを持っています(高橋,2008)。
・理想自己(自己概念)
こうありたいと思う自己イメージのこと。
・現実自己(経験)
実際の自分に対する自己イメージのこと。
理想自己と現実自己の差異は、自己イメージのギャップを意味しています(高橋,2008)。多くの精神療法家や臨床心理学者は、理想の自己像と現実の自己像が一致している状態を「適応状態」と捉えており(新井,2001)、理想―現実自己の差異が適応を左右する要因であると考えられています(遠藤,1991)。
つまり、理想と現実のズレが大きくなることで、心のなかで衝突が起こり、不安定になりやすいと考えられます。
たとえば、「常に完璧でいないといけない」という理想自己をもつ人が、実際にミスをすると、「こんな姿は本当の私ではない」と現実の自己を否認してしまい、不適応が生じることがあります。
では、どうしたら自分らしく、安定して過ごせるのでしょうか。
◆自己一致
-ありのままの自分を受け入れる-
人間の現実の体験と、そこで持つ自己像との間が一致していることを自己一致といいます(永島,1999)。この自己一致は、人間を本来の人間らしくするものであり、人生にとって大切な目標のひとつであるとも述べられています(佐野,2025)。
自己一致に向かうプロセスとして、“外的な評価からはなれてありのままの自己を受け入れること”を意味する自己受容という概念があります。自己受容の程度は、理想自己と現実自己の一致度によって判断されると考えられています(伊藤,1992)。
こうしてみると、自己一致とは「ありのままの自分を大切にする」生き方であるともいえますが、実際の生活では、思い描く理想と現実がうまく重ならないときも少なくありません。
そこで、そんなときにどのように自分と向き合うとよいのかについて考えてみたいと思います。
◆うまくいかないときこそ、自分にやさしくする
生活のなかで、いつも自己一致の状態を保つのは簡単なことではありません。しかし、「うまくいかない自分」も「落ち込んでしまう自分」も、すべて自分です。
もし、つまずいたときは、「こんな自分もいるよね」と自分にそっと声をかけてみてください。
自分の体験を大切にする小さな積み重ねが、心の適応を支え、あなたらしくいられる時間を増やしてくれると思います。
引用・参考文献
新井幸子(2001).理想自己と現実自己の差異と不合理な信念が自己受容に及ぼす影響心理学研究,72(4),315-321.
遠藤由美(1991).理想自己に関する最近の研究動向:自己概念と適応との関連で上越教育大学研究紀要, 10(2), 19-36.
伊藤美奈子(1992).自己受容を規定する理想―現実の差異と自意識についての研究教育心理学研究,40,164-169.
永島聡(1999).ロジャーズにおける「共感」の概念について大阪府立大学大学院人間文化学研究科・総合科学研究科紀要, 9, 144-154.
佐野和規(2025).ロジャーズの自己一致についての再検討:カウンセラーは無理に受容共感しなくていい学習院大学教職課程年報,11,65-79.
高橋紀子(2008).心理学研究における理想自己の位置づけ人間学研究, 9, 79-86.
山田俊介(2024).カール・ロジャーズの人間観と心理療法観―パーソン・センタード・アプローチの基盤―香川大学大学院医学系研究科臨床心理学専攻心理臨床相談室紀要, 3, 17-38.

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